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TURTLE MOON の Web雑記

『ビーフストロガノフは初恋の味』前編:08年5月9日

隣人の目覚まし時計で朝が始まる、安普請な部屋。

あのとき私は、恋をしていた。

大学3年生になって、初めてのひとり暮らし。

家賃月額一万円ぽっきりの、木造の学生アパート。
風呂なし・トイレ共同の六畳間には、冷蔵庫どころかテレビすらなかった。

それでも私は、この部屋が気に入っていた。
毎日が、本当に楽しかった。

前の主が残していった、シャープ製のラジカセ。
煙草のヤニで薄汚れた、元シルバーのゴツいラジカセだ。

これが、ラジオとカセットテープデッキの機能しかないにも関わらず、5Kgはありそうなバカ重さ。
持ち運ぶときには、うんしょ! とダンベルを挙げているような気分になれるほどの、大きさと重さだ。
それでも、布団を干すときの重石としてや、部屋の扉が壊れたときの突っ支いとしても、意外と便利に利用させてもらっていた。

そのラジカセで、フォークデュオ時代の「チャゲ&飛鳥」を聴きながら、薄い敷き布団の上でまどろむのが、この部屋での主な過ごし方だった。

このときの私には、生まれて初めての「彼女」がいた。

女性とは縁遠かった、それまでの私。
思えば高校の3年間などは、同世代の女の子とは、ただの一度も会話することができなかった。

そんな私に訪れた、初めての恋愛。
ハイイロの青春に、薄紅色の光が射し込めた。

「まるで、ドラマの主人公にでもなったかのようだ」

そんな錯覚をしながら、毎日をショッキングピンクへと染め上げてゆく、純情可憐な男子大学生……。

そんなある日。

私の二十一回目の誕生日が近づいていた。

「誕生日は、盛大に祝っちゃおうね!」

という彼女に、喜びを隠せない私。

生まれて初めての誕生パーティを盛り上げるべく、ハイテンションで計画を練る。
おぼえたてのワープロを駆使して、自らの手で「誕生パーティ開催のお知らせ」なるビラまで制作する始末。

出席者は、たったのふたり。
でも、それでよかった。

誕生パーティーとはいえ、まだ学生であるふたりには、豪華な催しは無理な話。

考えた末に、私のアパートで彼女が手作り料理を振る舞うというのを、そのパーティーのメインイベントに決める。
まだ若いふたりには、それで充分だったのである。

「ねぇ、なにが食べたい?」

「なんでもいいよ」と、いえばいいのだろうか?
いや、こういうときは、遠慮せずなにかをリクエストしてもらったほうが、彼女としても有り難いはずだ。

――ビーフストロガノフ

そのとき私の頭には、この料理の名が浮かんだ。

せっかくの誕生パーティーに、和風の料理はないだろう。
そして、食べ慣れた料理、例えばカレーライスなどは、パーティーというスペシャルな催しにはふさわしくない。

だから、ビーフストロガノフ……。

とはいえ、このときの私は、ビーフストロガノフがどんな料理であるか、明確にイメージすることはできなかった。
ただ、その料理らしからぬ強そうな名前に、以前から軽い憧れを抱いていたのである。子どもか(笑)。

当時、「ビーフストロガノフが我が家の食卓に!」という内容の、デミグラスソースのテレビCMが頻繁に流れていた。
なのできっと、「人並みに料理はできます」と日ごろ主張している彼女なら、作れないこともないだろう。

缶入りデミグラスソース 1
缶入りデミグラスソース 2

「ビ〜フ ストロガ〜ノフゥゥゥッ♪」

私は無邪気におどけながら、そのリクエストを彼女にぶつけた。

ちなみに、当時の私には、彼女の前で「でちゅ」「まちゅ」などの赤ちゃん言葉を使うクセがあった。
超キモい。これ忘れて(笑)。

「ビーフストロガノフか……」

一瞬考え込みながらも、OKの返事をくれた彼女。

私は期待に胸を膨らまし、誕生日のその日が来るのを待ちわびていた……。

>「後編」へ続く。


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