TURTLE MOON の Web雑記
『ビーフストロガノフは初恋の味』後編:08年5月12日
隣人の夕食の匂いでお腹が鳴る、安普請な部屋。
あのとき私は、恋をしていた。
あ、この記事は「後編」です。
「前編」はこちらになります……。
そして、ついに私の誕生日。
自らの手で制作した「誕生パーティ開催のお知らせ」に沿って、催しは順調に進んでいった。
途中、誕生日プレゼントとして、特大の「ペンギンのぬいぐるみ」を渡されたときには、素直に喜びつつ心のどこかで戸惑いもあったが(笑)。
それでも、ふたりのスペシャルな時間は、夢のように幸せに過ぎていった。
※下はCDケースです
トントントントン……
ジュワ〜〜〜!
これからいよいよ、この誕生パーティーのメインイベントである、彼女手作りのディナータイムが始まる。
――ビーフストロガノフ
私が、「スペシャルな感じで名前も強そう」という、アホまるだしな理由でリクエストした、この晩餐のメインディッシュ。
今、その無邪気なリクエストに応えて、愛する彼女が一所懸命に作ってくれている。
その未知なる料理に、私の期待は否応なしに昂まり続けた。
「できたよ……」
狭い一人用のテーブル、というか「おぜん」に、念願のビーフストロガノフがゴトッと2皿載せられた。
「ふたり分って、なかなか難しくて……」
一瞬、至近距離で、ふたりの目線が合わさる。
……なにこの面白料理?
お皿には、30分以内に完食したら賞金が出そうな勢いの、超山盛りのビーフストロガノフ。
空っぽのデミグラスソースの缶には、「4〜5人前」との文字がみえる。
これは、先日、私が作ったものです(笑)
「これくらい大丈夫さ! オレが大飯喰らいだって知ってるだろ!」
自信満々でそう答える私。
なぁに、喰えない量じゃないはず……。
「い、いっただっきまぁ〜す!」
とりあえず、念願のビーフストロガノフを、わっしと口に運んだ私。
大量の黒山を制覇するべく、その第一歩となる、ひと口目を頬張った。
もぐもぐもぐ……
しかし、「問題は量ではない」ということに、すぐに気づく。
その未知なる味わいに、形容すべき言葉がみつからない。
けっして喰えない味ではないが、なぜだか、なかなか喉を下りていかないのだ。
「へ、へぇぇ〜。ビーフストロガノフって、こういう味だったんだねぇ?」
私は精一杯の笑顔をつくり、彼女にそう尋ねた。
「う〜ん、私も初めて食べるからわかんない……」
なんですとぉ??
オマエも喰ったことないのかよ!
なんと、ふたりがふたり、今日この日がビーフストロガノフ初体験。
そんなんで、美味い料理ができるワケがない。
「いや、でもけっこうイケるんじゃない? なんか豪華な感じで……」
必死のフォローが、この味の正直な感想を物語る。
「やっぱりダメだったね♥」
少し悪びれながらも、愛嬌で誤魔化そうとする彼女。
すぐさま半笑いで、その評価を否定する私。
「いやぁ〜もともとこういう味なんでしょ〜ビーフストロガノフって! ロシア料理なんだから、ピロシキみたいなもんでちゅよね!」
強引に赤ちゃん言葉を織りまぜながら、だんだんと支離滅裂なことをいい始める私。
こういうときは、焦れば焦るほど、収集がつかなくなってくるものである。
確かに、ふたりとも初めてでは、これが正しいビーフストロガノフの味なのかの判断はつかない。
それでも、単純に料理としていうならば、絶対に美味いとは思えない。だってなんかコーヒーの味がするよ……。
「隠し味」として入れられた、生クリームや赤ワイン・しょう油などが、なにかの加減で化学反応を起こしたのかもしれない。
っていうか、今、ネットで調べたら、「隠し味にコーヒーを入れると味がしまる」との記述を発見してしまった。きっとこのせいだ(笑)。
それでもひとついえるのは、黒山の中で大量に転がっている牛肉だけは、死ぬほど豪華だということ。
彼女が奮発して、100gで1,500円くらいの、超高価な特選和牛肉を買っていたからだ。
普段は、スーパーの精肉売り場では最安値グループの、豚バラの切り落とししか買えない私からみたら、生涯で何度お目にかかれるか分からないレベルの代物である。
「せっかくの高い牛肉も、この黒いドロドロの中だと、まるで台無しだな……」と、心でつぶやく私であった。
テレビすらない、退屈な部屋。
押し黙るふたりの間に、古めかしいラジカセから、チャゲ&飛鳥の名曲「万里の河」「男と女」などが流れていた。
超大量のビーフストロガノフを腹におさめた私は、すきをみて、共同のトイレへと駆け込む。
“二人の運命知らぬ河は 淡い夢をのせて”
“流れて行くようで……”
その後この彼女とは、10年を超える長き付き合いの末に、お別れすることとなった。
食べたことのない料理を一所懸命に作ってまで、この私を喜ばせようとした、菩薩のように慈悲深かった彼女。
ニート風味な人生に陥って、そんな彼女の想いを踏みにじった、最低人間の私。
“あなたの愛をもっと ぬくもりをもっと あるれるほどに”
“あなたの愛をもっと ぬくもりをもっと 感じていたかった”
“心の支えは いつの時代も”
“男は女 女は男……”
あの長すぎた春の中で、一番の思い出となっているのが、今回ご紹介した「ビーフストロガノフの誕生パーティー」の一件かもしれない。
私にとって、あの微妙な味わいのビーフストロガノフは、初恋の味なのである……。
はいはい!
そんなワケで、この私の他愛もない青春の思い出話を、恥も外聞もかなぐり捨てて記事にしてみました!
色々ありましたが、このビーフストロガノフの件は、本当に楽しい思い出です。
今でも誕生日を迎えるたびに、このときの一件を思い出します。
私のようなダメ人間と付き合ってしまった、大好きだった、あの「うっかりさん」を……。
今やニート風味という、クソのような人生を送っている私にとっては、まさに、まばゆいほどの青春の思い出話。
二十歳を過ぎて経験した、初めての恋愛。
憧れ続けた。想いばかりが熟成していた。
たゆたう青春の行方は、大人になって実を結ばなかった。
大切に、温めていたはずなのに。大切に……。
今にして思えば、このころが、私の人生の絶頂期であったように思います。
明らかに、未来は暗いでしょうし(笑)。←よく笑っていられるなw
“恋して燃えた日は 誰も懐かしい”
“いくつかの物語に 服を着せて”
“やさしくなれれば それだけでいい”
“恋して燃えた日は 誰も懐かしい”
“幸せと悲しみとが 寄り添って”
“甘い実をつける 見つめている……”
隣人のオナラがまる聞こえの、安普請な部屋。
あのとき私は、恋をしていた。
そして今。
私は、アニメの女の子に恋をしている……。←ダメすぎるw この彼女は別れて正解だったなw